断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

静岡での初雪

 先日、大学の仕事帰りに夕食をとっていたら、隣の席にいたカップルが「静岡って沖縄の次に暖かいんだよね?」などと話していた。さすがに「沖縄の次」はないと思うが、暖かいのだけは確かである。その証拠(?)に私はこの地で雪が降るのを見たことがない。(強い寒波で風花が舞ったのは何度かある。また静岡といえども山沿いは雪が降る。)ところが今日、昼過ぎに部屋を出ようとしたら突然雪が降り始めた。それも「ちらつく」といった可愛い降り方ではない。かなりの本降りである。物珍しさに外へ出て歩こうとしたら、すぐに止んでしまった。頭上には綺麗な青空が広がっている。どうやら一過性の雪雲が流れてきていたらしい。
 あらためて服を着込んで外へ出、自転車で瀬戸川沿いの道を目指した。ここは道に沿ってたくさんの梅が植えてある。よそではすでに梅が咲き始めている。ここも去年は一月のはじめに開花していたので、今年はどうなのか見てみたかった。
 とにかく寒い。ふだんは自転車に乗る時でもセーター一枚で済ましているのだが、今日はジャンパーを着ていてもつらいくらいだ。道に着いた。やはり梅は咲いていた。白梅だけでなく紅梅も咲いている。顔を近づけて匂いを嗅いだが、強烈な寒気のためか、香りも心なしか硬くとどこおっているようだった。
 河川敷に沿って小さな疎林がある。自転車を止めてそこへ下りて歩いた。小鳥たちが木々の枝を飛び交っているが、寒さのせいかいつもの敏捷さがない。ぽつりぽつりと鈍重な枝移りを繰り返している。しかし地面に落ちる日は明るい。日が高くなってきたということもあるのだろうが、何となく日差しがはなやいで見える。
 道へ戻り、そのまま川沿いを走った。見晴らしのよい地点へ出て西の空を見渡すと、大井川の谷の上に厚い雲がかかっていた。ちょうど雲のへりに差しかかった午後の太陽が、古い宗教画にあるような輝かしい光芒を放っている。たぶんあちらは雪が降っているのだろう。静岡にいる間に一度は大井川の雪景色を見たいと思っていたのだが、結局、今回も見そびれてしまった。