断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

2018-01-01から1年間の記事一覧

何もない近況報告

先週末で年内の授業は終了した。その後すぐクリスマスだったが、残念ながら今年は一緒に過ごす相手がいない。一人で家にいるのも悲しいので(笑)、島田にある温泉へ行って半日を過ごしてきた。「田代の郷温泉・伊太和里の湯」というところで、山の上にある…

師走のひつじ田

十二月に突入し、年内の授業も残り二週間。先週の木曜くらいまでは半袖でも大丈夫な日和が続いていたが、週末は一気に気温が下がった。冬本番といった感じである。 気がついたら句誌「りいの」への投句の期日が迫っている。最近は二か月連続でちゃんと投句し…

島田市「ばらの丘公園」

三日前の水曜日は上野の東京芸大での仕事で、その行きがてら上野公園を散歩した。まばゆい秋の光りに満たされた園内を歩きながら、ふと三島由紀夫の「ドルヂェル伯の舞踏会」という評論の冒頭部分を思い出した。家に帰って久々にこの作品を読み返してみた。 …

歳時記の美学

俳句の季語は、一部は伝来の和歌や連歌などに由来するけれど、俳諧連歌の成立とともに新たに多くの季語が生まれた。新しい季語は、俳諧の創成期に限らず近代以降も多く生み出されている。 蚊柱や棗(なつめ)の花の散るあたり 江戸中期の俳人、加藤暁台(き…

句作の続き

後期の授業が始まってちょうど一ヶ月経った。順調に授業をこなしている。 以前にもどこかで書いたが、私は「りいの俳句会」の会員になっている。これは学部生時代の恩師であり、職場(東京芸大)の上司でもある檜山哲彦先生が主催されているもので、毎月一回…

作者と「精神」

前回の記事で池大雅について書いたが、そのことに関連して少し補足的に書いてみたい。 芥川龍之介は最晩年の漱石を「才気煥発する老人」と評している。世間の人々は漱石を「枯れた文人」だったように回顧しているが、そんなのはウソだ、あの人は死ぬまで青年…

池大雅と「精神」

先週の水曜日は東京芸大の授業の初日だった。久々に上野へ出たが、ちょっと早めに着いたので、東京国立博物館の常設展へ寄った。 本館の二階は縄文時代から江戸時代まで、時代順に日本美術の流れを概観できる仕組みとなっている。玉石混交の展示だが、保存の…

久方ぶりの句作

今週から後期の授業が始まった。その直前となる週初めの月曜日、大井川の川根温泉へ出かけてきた。三連休の最終日で多少混雑していたが、ストレスを感じるほどではない。まあこんなものかといった感じである。いずれにせよここの湯は、いつ行っても混んでい…

夏休み終了間近

二か月足らずあった夏休みもあっという間に過ぎた。来週からまた新学期が始まる。この夏は信州白馬へ旅行したりもしたが、体調を崩して寝込むということもあって、いつになく慌ただしかった気がする。 寝込んでいる最中、今までに訪れた温泉地を頭の中で数え…

駿河湾フェリーのこと

駿河湾フェリーというのは、駿河湾を横断して静岡の清水と伊豆の土肥を結ぶフェリーである。清水から乗船すると、左手に富士山を、右手に三保の松原を眺めながらのおよそ一時間の船旅である。気軽な船旅が楽しめるのと、伊豆の西海岸への好適なショートカッ…

卒業する学生に本を勧めるとしたら?

前回の記事の付け足しである。 私は『ガリヴァー旅行記』のスウィフトが、総体としての人間批判を行ったと書いた。実際に読んでいただければお分かりになるが、スウィフトは、人間性にひそむ底なしのエゴイズムや貪欲、虚偽、卑劣、攻撃性といったものを、ヤ…

新入生に本を勧めるとしたら?

昔、社会人二年生の後輩と飲んでいてこんな話を聞いた。彼ら二年生が、新入社員に本を一冊すすめるよう言われたというのである。年齢的に一番近いということもあったのだろうが、思うにこれは、彼ら二年生自身の「自己研修」だったのだろう。誰かにものを教…

写真の追加

追加の写真です。「お座り」を仕込まれたご近所のペットさんです。(ウソですよ。)

前期の授業終了

先週の木曜日、8月2日に前期の授業が終了した。採点などの作業もほぼ終わり、夏休みに「突入」である。気がついたらブログのほうも、二か月以上更新していない。気にはかかりながら、ずるずるとサボってしまった。書こうと思っていた記事もいくつかあるので…

黒俣の春

久能尾(きゅうのお)という終点でバスから降り、すぐそばの橋の上でサンドイッチをかじった。四月の第一週。空がきれいに晴れ渡っている。橋の下には軽快な沢音が響き、川岸の桜からしきりに花吹雪が降っている。 ここは藁科川の支流・黒俣川が、国道362号…

牧之原台地散策

金谷は旧東海道の宿場町で、五十三次のうちの二十四番目である。東京方面から行くと、島田を出て大井川を渡ったすぐのところで、SLで有名な大井川鉄道の始発駅でもある。 幕府の政策で、大井川には橋がかけられなかった。橋だけでなく船による渡河も禁じら…

旅人と旅好き~湯川秀樹の自伝『旅人』(6)

兄弟たちが揃いも揃って優秀ということもあったのだろう。(長兄芳樹は冶金学者で東大教授。次兄貝塚茂樹は東洋史学者で京大教授。弟の環樹は中国文学者で京大教授。)が、それにしても秀樹が在籍した京都一中は当時の超エリート校で、彼の同級生にも、後に…

旅人と旅好き~湯川秀樹の自伝『旅人』(5)

ある日の夕方、研究室を出た琢治が銀杏並木を抜けて歩いてゆくと、ふいに後ろから声をかけられた。秀樹の中学の校長をやっている森外三郎だった。ふと或る考えが彼の心にひらめいた。この校長に相談してみるのが一番よいかもしれないと。 「あなたは、僕の三…

ブログ名の変更

新年度を機にブログ名を変更しました。検索の便宜上、しばらくは旧名を併記します。よろしくお願いいたします。

旅人と旅好き―湯川秀樹の自伝『旅人』(4)

そんな二人の間に、一つの決定的なドラマがあった。それは秀樹が三高に入学する以前、まだ中学に在学中のことである。もっとも息子のほうは、この決定的な出来事を、はるか後年になって聞き知ったのではあるが。 琢治は元々、息子たちをみな学問の道へ進ませ…

旅人と旅好き―湯川秀樹の自伝『旅人』(3)

同じ中学四年生のとき、アインシュタインが来日した。神戸から京都を経由して東京へ向かい、各地で講演旅行をしたのち、再び京都へ戻ってきて講演をしたが、「私は聞きに行かなかった。講演がいつ、どこであるかさえ、よく知らなかったのである。」 実をいう…

旅人と旅好き―湯川秀樹の自伝『旅人』(2)

そんな父のことを、湯川秀樹はこうも記している。 こういう父の生活ぶりは、父が私よりも、はるかに活動的な人間であることを示している。私も近年、しばしば旅行に出るが、たいていはやむなく、という感が深い。人間は自分の置かれた境位のために、どうして…

旅人と旅好き―湯川秀樹の自伝『旅人』(1)

学者とか研究者とか呼ばれる生き物には二つの種族がある。「ビーバー」タイプと「クモ」タイプである。ビーバーは自然の枝や泥を用いて壮大なダムを構築する。同じように「ビーバー」タイプの研究者は、情報をすすんで蒐集し、それを加工して研究成果を作り…

内村鑑三『代表的日本人』

先日、初めて内村鑑三の『代表的日本人』(鈴木範久訳、岩波文庫)を読んだ。西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮の生涯を、主に外国人向けに英語で記したものである。五人の生き様は理想化され過ぎているきらいがあり、実際にはもっと多くの内的…

早春の用宗

用宗は静岡と焼津の間にある漁港の町だ。静岡駅からは西へ二駅、時間にしてほんの七、八分である。焼津との間にはJRの石部トンネルがある。新幹線や東名高速の日本坂トンネルと並行し、二キロを超える長さである。 駅からすぐ近くに海水浴場があり、何年か…

『氷川清話』のエピソード

勝海舟『氷川清話』(角川文庫)の中にこんなエピソードが載っている。富籤の祈祷がよく当たるという評判の行者がいた。一時は相当に羽振りがよかったが、やがて落ち目となり、最後はみじめな末路をたどったという。その彼が、若き勝海舟に向かってこんな話…

遊び・遊び・遊び(2)

その後、日をあらためて漁港で有名な用宗へ遊びにいったのだが、これについては別の記事で紹介することにしたい。 井上靖が「旅情・旅情・旅情」というエッセイの中でこんなことを書いている。 ただ厄介なことは、旅情は求めて得られるものではないというこ…

遊び・遊び・遊び(1)

学期末試験やそれに伴う採点などの作業は、十日ほど前に終わった。何はさておき羽を伸ばしたい気分だったので、焼津で温泉のはしごをしてきた。 焼津には温泉を引いたホテルや施設がいくつもある。いわば焼津観光の目玉の一つになっているわけだが、源泉の湯…

従容として必死に

二つの大学の試験期間が重なり、問題作成やら採点やらで忙しかったが、ようやくゴールが見えてきた。まだ全部終わったわけではないけれど、もう一息というところまで来ている。 試験期間に先立って退官する先生の送別会があった。この時期は新しい出会いや別…

謹賀新年

ここへ来て急に寒さが本格化した。以前の記事で書いたベランダの朝顔もついに枯れて硬くなってしまった。 先週の半ば頃、この冬一番という寒さがやってきた。この地の冬は、風は吹くけれど温暖で、ここに住むようになってから一度も雪が積もるようなことはな…