断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

私の好きな小説7(国木田独歩「忘れえぬ人々」)その3

「忘れえぬ人々」で描かれているのも、これと同じ種類の詩趣である。「その時油然として僕の心に浮かんでくるのはすなわちこれらの人々である。そうでない、これらの人々を見た時の周囲の光景のうちに立つこれらの人々である。」 ところで俳諧的な詩意識は、…

私の好きな小説7(国木田独歩「忘れえぬ人々」)その2

「武蔵野」で独歩はこう記している。 (前略)市街ともつかず宿駅ともつかず、一種の生活と一種の自然とを配合して一種の光景を呈しおる場所を描写することが、すこぶる自分の詩興を喚び起こすも妙ではないか。なぜかような場処が我らの感を惹くだろうか自分…

私の好きな小説7(国木田独歩「忘れえぬ人々」)その1

「忘れえぬ人々」の舞台は溝口である。今は東急田園都市線と南武線の交差する繁華な土地だが、当時は草深い場所だったらしく、小説の冒頭で、冬の夕暮れの陰鬱な茅屋根風景が描かれている。 その地の亀屋という旅宿でたまたま同宿した二人の青年、無名の小説…