断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

私の好きな小説5(太宰治「ヴィヨンの妻」)

言わずと知れた太宰治の名作で、こんなところで私がとり上げるまでもない有名な作品であるが、この小説の末尾近くにある「中野のお店の土間で、夫が、酒のはいったコップをテーブルの上に置いて、ひとりで新聞を読んでいました。コップに午前の陽の光が当っ…

私の好きな小説4(川崎長太郎「鳳仙花」)

川崎長太郎のいわゆる「抹香町もの」は、小田原抹香町の私娼街を舞台に、作者の分身川上竹七と娼婦たちの交渉を描いたもので、「鳳仙花」はその代表作である。 海辺の物置小屋に浮浪者同然の生活を送る老作家竹七と、「東京本所生れの、いわずと知れた下積者…

「高貴なる」日本人

今、授業で東日本震災関連のドイツの雑誌記事を扱っている。震災直後の日本人のモラルの高さ、原発事故での作業員の自己犠牲精神などを、日本社会の強い共同体意識から説明し、背景として日本の歴史に言及する、といった内容である。 これは、日本的な共同体…

私の好きな小説3(坂口安吾「私は海をだきしめていたい」)

安吾の「私小説」は、独特の分析的な文体で書かれている。「私は海をだきしめたい」もそうした「分析的私小説」の一つである。 分析は物語の時間をせき止め、出来事の自然な継起を中断するから、ときに不自然で息苦しい印象を与える。 だが、「私は海をだき…

教師の新学期

また新学期が始まった。およそ二ヶ月ぶりである。 いつものことながら、長い休みの後に仕事に出るのは気が重い。しかし久々に学生たちに会って話をすると、ちょっとだけ気が晴れた。私はあまり社交的な人間ではないが、学生と接するのは嫌いではない。 自分…