断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

句作の続き

 後期の授業が始まってちょうど一ヶ月経った。順調に授業をこなしている。
 以前にもどこかで書いたが、私は「りいの俳句会」の会員になっている。これは学部生時代の恩師であり、職場(東京芸大)の上司でもある檜山哲彦先生が主催されているもので、毎月一回、「りいの」という句誌が送られてくる。会員はそこに投句することができるのである。
 先日、本当に久々に投句をした。目下、ドイツ語のクラスの一つで「最上級」の項目をやっていて、その教科書に「学生はテストの後が一番幸せです。」という例文が載っている。投句用紙に句を記載し、封筒に入れて投函したときの気分は、ちょっとそれに近かった。
 むろん投句は会員の「権利」であって「義務」ではない。出さなかったからといって何かペナルティーが課せられるわけでない。単に会費を払った分の権利を喪失するだけである。にもかかわらず、やるべきことをやらずにいたという思いが心のどこかに引っかかっていたのは確かで、ずっとさぼっていた仕事にやっと手を付けたという、一種の解放感があった。
 むろん俳句を作るという作業は、純粋にそれ自体としても楽しい。学生の期末試験のような単に義務的なものとは違う。そんなわけで最近は、すぐに手の届くところに歳時記を置き、思い立ったらページをめくることにしている。書きかけの句も目に付くかたちで机の上に置いてある。研究テーマと同じで、なるべく思考を「オン」の状態にしておくよう心がけているのである。

伊那谷は秋灯ばかりとなりにけり
靴入れの底の深さよちちろ虫
みのり田は華やかなりし峠下
老い猫の目を温むる秋日かな
伐り竹のばさりと落ちぬ山しづか


全く関係のない写真だが、山の上から遠州灘を遠望。遠くに水平線が浮かんでいるのがお分かりいただけるだろうか。