断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

8月29日(チェレリーナ~ツオーツ)

 朝5時起床。前日の天気予報で、午後からにわか雨があると聞いていたので、早目に動くことにしていた。
 荷物を預けて宿を出発。今朝の空気はさわやかで、ちょっとひんやりするくらいだ。ここへ来るまでずっと続いていた暑さも、昨日の驟雨で洗い流されたようである。7時15分の列車でサン・モリッツ駅へ。が、着いてみるとバスの始発まで一時間近くあり、駅構内で待つことになった。
 バスに乗ってスールレイというところまで行き、そこでロープウェイに乗った。頂上のコルヴァッチは標高が3000メートル超。麓からの標高差は千数百メートルである。値段は60フラン。日本円にして7000円近い料金である。
 21歳ではじめてスイスを旅行した時、現地の人に「スイスは物価が高い」と愚痴ったら、「日本だって高いじゃないか」と反論され、言葉に詰まったのを覚えている。が、今現在のスイスの物価は、とても日本の比ではない。ものにもよるけれど、場合によっては日本の三倍くらいの値段が平気でついていたりする。(たとえばバゲットのサンドイッチが一本900円など。専門のベーカリーではない。普通のスーパーでの値段である。同じ値段ということで覚えているのが、18ロール入りのトイレットペーパーの900円である。話は前後するが、スイスからドイツに入って「まともな」物価を見たとき、やっと普通に買い物ができると思ってほっとした。)
 頂上の展望台からシルス湖やシルヴァプラーナ湖、それから4000メートル級の山々を眺めたあと、中間駅のムルテールへ戻る。そこからロゼックの谷を目指してトレッキングをすることにしていた。
 歩き始めは、大きな岩が散乱する工事現場のような場所をトラバース。アルプスが巨大な岩塊であることを実感する。そこを通り過ぎて尾根へ出ると、突然、ベルニナの山々の見事な眺めが現れた。山の正面には巨大なロゼック氷河がせり出し、先端から白い川筋が流れ出している。ここからロゼックの谷へ下り、ポントレジーナの町を目指す予定だったが、痛めていた足にイヤな感じが戻ってきたので、無理せず、行けるところまで行って戻ることにした。山々の眺めを前にして急な下りをしばらく下り、手近な岩に陣取って昼食を広げた。
 来た時と同じコースをたどって再びロープウェイ駅へ。下へ着いてバスの時刻を見ると一時間待ちだったので、近くのレストランへ入ってビールを注文した。(ちなみにこの地区のバスは、おおむね一時間に一本のペースで運転されている。インフォーメーションセンターも13時から16時までと長い休憩タイムがある。)
 バスでサン・モリッツ駅へ。列車でチェレリーナ駅に戻り、ス―パーマーケットで買い物をした。ビールとワイン、ハム、果物などを買い込み、その足で宿へ。荷物を受け取ってまた駅へ戻り、今夜の宿があるツオーツへ向かった。宿は駅からちょっと離れていたけれど、迷うことなくすぐに見つけることができた。受付の人が片言の日本語を披露して和ませてくれた。荷物をもって部屋へ行き、しばらく寛いでから再び外へ。暮れなずむ山間の街をしばし逍遥した。古風な、しかし軽やかな明るさをもつ静かな街並みだった。


ロープウェイ山頂駅から眺めたシルヴァプラーナ湖


同じくシルス湖。まるで航空写真のような鳥瞰角度である。



山頂駅から遠望するベルニナの山々



トレッキングコースからの眺め



ロゼック氷河。氷河の先端から流れ出す白い川筋が見える。