断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

8月31日(ツオーツ~ミラノ その1)

 スイスの滞在はこれが最終日。今日中にミラノへ戻り、明日は成田行きの飛行機に乗るので、実質的に旅の最終日でもある。日本へ帰ることを思うと、なぜか子供のように心細い。不安な胸騒ぎのようなものさえする。理由は分からない。おかしなことだが、日本からヨーロッパへ来るときは、こんな気持ちにはならなかったのだ。
 二日間泊まったホテルを後にしてツオーツの駅へ出た。そこで両替を済ませ、列車に乗り込んだ。昨日と同じルートをたどり、ディアヴォレッツァ駅へ。ロープウェイに乗る前に、荷物を置く場所はないかと係員に訊いてみた。気さくな人で、大きな倉庫のような場所を開けて荷物を入れてくれた。身軽になって山の上へ向かった。
 山頂駅からはベルニナ山群の大パノラマが見えた。だが、なぜかあまり感動しない。「こんなものかな」みたいな気持ちが、心のどこかにある。
 山頂には日本人のツアー客がいた。しかし向うから声をかけてくることはなく、遠目にこちらの方をちらちらと眺めている。気温が10度を切る寒さなのに、短パンに半そでという私のいでたちが、何となく胡散臭い印象を与えてしまったのかもしれない。
 ロープウェイの山頂駅からムント・ペルスという山へのトレッキングをすることにしていた。標高差は大したことないが、ガレ場があって多少神経を使った。ほどなく山頂に到着。眼下には昨日訪れたモルテラッチ氷河が見える。休んでいた女性に写真を撮ってもらい、しばし雑談をした。山頂から見えるトレッキングコースやら山小屋の位置やらを教えてくれた。
 間もなくガスがかかってきた。雨に降られてはたまらないので、急いで下山。幸い雨にはやられることなしに無事ロープウェイ駅まで戻ってきた。ロープウェイで山麓まで下り、ふたたび列車に乗りこんだ。ここからベルニナ線は、いくつかの湖を横に眺めつつ、標高2300メートル超のベルニナ峠を経由して、イタリアのティラノへと下っていく。長かったスイスの旅も、残すところあと数時間である。


ロープウェイの山頂駅から見たベルニナ山群



トレッキングコースにて。画面の中央に小さく見える建物が、ロープウェイの山頂駅。



車窓から見たラーゴ・ビアンコという湖。森林限界を超え、まるで極地の風景のようだ。