断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

上野動物園再訪記

 前々から上野動物園を再訪したいと思っていたが、なかなかできずにいた。昼間で時間が取れるのは授業前の時間帯だが、この時間は美術館で暇をつぶすことが多い。西洋美術館や国立博物館の常設展は「キャンパスメンバーズ」の制度を使って無料で入れるから、かりに三十分くらいの短い空き時間でも気楽に足を運べる。それに動物園というのは、そもそも一人で行くところではない。動物園の醍醐味は、みんなと一緒に騒いで盛り上がることである。それでも前期の授業期間が残り少なであるのに気づいた一昨日、いつもより早めに家を出て、ついに念願の上野動物園再訪を果たしてきた。
 チケットを買おうとして並んで驚いたのは、外国人観光客が多いことである。それも圧倒的にアジア系の観光客が多い。なぜわざわざ外国へ来てまで動物園へ足を運ぶのだろうかとちょっと不思議に感じた。動物園などというのはどこの国にもあって、猿やライオン、キリン、シマウマなどの定番のアイテムが並べられているはずだと思っていたが、それは私の固定観念に過ぎなかったのかもしれない。あるいは入り口を入ってすぐのところにパンダを観る人たちの長い行列があったから、これがお目当てだったのかもしれない。
 しかしひとたび園内に入れば、もはや国籍などどうでも良くなってしまった。人間の感情というものは、個人の脳の中に閉じ込められているわけではない。それは人間の身体の外へまで拡がっている。このことは科学的には証明できないかもしれないが、体験上たしかな「事実」であって、だから他人の感情は、何かしらの影響力を私たちの気分に及ぼす。動物園を回る人たちの、老若男女を問わぬ子供らしい驚きや喜びは、園内のいたるところ、何か微妙な匂いのように拡がっていて、それが私を酔わせた。私は園内を、異国の観光客たちと子供のような気分を共にしつつ歩いていった。一人で行ってもつまらないだろうという心配は私の杞憂に過ぎなかった。
 こうして一人で盛り上がり、やたらと元気になって職場の東京芸術大学へたどり着くと、周りの人たちとの気分のギャップに拍子抜けしてしまった。元々ここは普通の大学よりも明るくテンションが高いのだが、しかしさすがの芸大も、動物園と比べれば「大人の空間」なのであった。




おなじみのシロクマ君



ネズミ君、ごめん。正式名を失念してしまった。



同じく匿名希望の三匹君です。



今回のお目当てだった一匹。ほかにベンガルヤマネコを見るのを楽しみにしていたが、残念ながら隠れていてご対面できなかった。