断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

ヤマメの里梅園

 あっという間に二月が終わった。二月は言わずと知れた梅の季節で、今年は相良梅林というところへ行こうと思っていたのだけれど、結局行けなかった。天気が悪かったり風が強かったりして先延ばしにしているうちに、機を逃してしまったのである。
 今年の二月は強い雨が降ったり寒暖の差が激しかったりで、みるみる梅が散ってしまった。近所の梅ですらそうなのだから、もっと南にある相良梅林(これは御前崎の近くにある)は、行くだけ無駄というものであろう。
  諦めの悪い私は、代わりに山の方へ行ってみることにした。藤枝の瀬戸川の支流に滝ノ谷川という川がある。そのまた支流の滝沢川を遡った山奥に梅林があるのを知っていた。観光名所となるような有名な梅林ではないが、以前に何度か自転車で通った時に看板を見かけていて、一度行ってみたいと思っていたのである。
 小さな集落の中に「もうすぐ梅林」という看板があり、そちらの方向へ行ったのだが、かなり走ったのにそれらしきものはない。実は以前に来た時も、梅林らしきものは見当たらなかったのである。うろうろしていると、通りかかったおじさんに「峠に行くのか?」と訊かれた。
「いえ、梅林を探してるんですけれど。」
「ああ梅林ならすぐそこだよ。」
 その通り、ちょっと行った先に「ヤマメの里梅園」という看板が見つかった。どうやら商業施設のようだが、入場料を取っている様子はない。橋を渡った向こうに、農家の庭先みたいな小さな梅園があった。
 ここも花はもう散りかけていた。客は私以外にいない。建物からも誰も出てこない。ちょっと気抜けのした感じだったが、 川のせせらぎ以外何も聞こえない静かな場所で、梅を楽しむには最高の環境であった。
 理想の梅園というものを時々考えてみることがある。第一にそこは静かな場所でなければならない。車の音などもってのほかだが、園内にスピーカーで音楽を流すなどというのもダメである。南向きの山裾にあって日当たりもよく、できれば小川のせせらぎがあってほしい。
 他にもまだまだ色々な条件があるのだけれど、ここの梅園は上に挙げた立地条件をほぼ満たしている。ただ、惜しいことに手入れをあまりしていなくて、多少荒れた感じがした。園内をゆっくり回りながら私は、今年の梅もこれで見納めだなとしみじみ思った。


ヤマメの里梅園