断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

石津浜で遊んだこと

 先週の月曜日、最後まで残っていた前期の追試が終わった。成績をつけて教務へ提出、これで夏休み前の仕事は全て完了。追試が終わるとその足で用宗海岸へ行き、海を眺めながら缶ビールを空けた。学期中にも何回か、こうやって仕事後にくつろいだものだが、八月の終わりともなると日が随分と短くなっていた。寝そべって空を眺めたり、波打ち際で足を浸したりして一時間半ほど過ごした。帰るころには暮れかかり、澄んだ夕空に秋の色が滲んでいた。
 授業自体は八月の頭までにほぼ終わっていて、とっくに夏休みモードに入っていたのだけれど、追試が終わってほっとした。と同時に、なんだかひどく疲れきった気分がした。 春先から授業以外にも厄介なことが立て続けにあって、目に見えない疲れがたまっていたのだと思う。しばらく経っても何もやる気が起こらないので、日を改めて焼津の石津浜海岸へ釣りに行ってきた。
 実は昨年、井伏鱒二のエッセイを読み、にわかに釣りをやりたくなって釣り道具を一式揃えたのである。と言ってもダイソーの品物を中心とする安物ばかりで、「道具一式」という名に値するかどうかも疑わしい。 初心者こそちゃんとした道具を揃えるべきだという意見がある。しかし慣れるまでは安物で練習した方が良いという意見もあって、一も二もなくこちらの意見を採用したのであった。
 さてこの石津浜海岸はショアジギング(浜での投げ釣り)のメッカである。この日もかなりの釣り人がきていた。と言っても広い砂浜だから混雑するほどではない。最低でも10メートルくらいの距離をあけている。その一角に陣取り、釣竿にリール、そしてルアーを取りつけて、海へ向かって投げはじめた。ヘボなのでさっぱり食いついてくれないが、それでも何回か当たりらしきものもあった。ソフトタイプのルアーの尾が食いちぎられたりもした。
 砂浜での釣りは、ルアーをどれだけ飛ばせるかが勝負になってくる。岸に近い浅瀬には、なかなか魚が寄りつかないからである。それには長い竿と重めのルアー、そして何よりも飛ばす技術が必要である。 YouTube などを見ていると平気で100メートルくらい飛ばす人がいる。名人ともなると200 メートル 飛ばす人もいるという。僕にはとてもそんな技術はないし、竿もルアーもスペック不足の安物なので、さっぱり距離を稼げない。それならショアジギングなんてやらずに漁港にでも行けばいいじゃないかと言われるかもしれないが、たとえ釣れなくても、水のきれいな広い海岸で投げている方が楽しいのである。ひたすら投げ続けていると、体が海の色に染まってくるような気がする。 この日は靴を脱いで水に浸かりながらやっていたので尚更だった。僕は海よりも山が好きで、昔も今もそれは変わらないのだが、最近は海の方もよほど好きになってきた。
 そろそろ帰ろうとして釣り道具を片付けていると、目の前で30センチくらいの魚がピョンと跳ね、白い腹を波の上で光らせた。岸を背にして松林の方へ上がっていくと、志太平野の上に広がる大きな夕景が 、頭上に覆いかぶさってきた。


夕暮れ近い用宗海岸



大井川の夕景(記事の内容とは関係ありません😄  )