断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

温泉今昔 3、北関東の某温泉

 本来温泉名を挙げるべきだが、内容が内容なので名前は伏せる。場所は北関東の山奥の宿である。ちなみにパソコンで検索してみたところ、宿はすでに建て替えられて立派なホテルになっていた。
 そこへはサークルの仲間と一緒に行ったのだが、到着早々部屋に通されてみると、畳の上に虫の死骸がびっしり散乱していた。「あらあら、まだ掃除がしていなくって。」宿のおばあさんは箒とちりとりを持ってきて、ささっと畳を掃き清めた。「今ふとんを敷きますからね。」
 夕食後風呂にはいることになったが、お湯は二人以上は入れないというので、一人ずつ順番に行くことになった。はじめに行った同級生が戻ってくると、「いやー、すごい湯だった。」どうすごかったのかと訊いても笑って答えない。とにかく行ってみろという。
 タオル片手に、宿の人に案内を請うて行くと、庭の片隅(だったと記憶している)に小型のドラム缶のようなものがあって、これが湯だと教えられた。どこかの源泉からくみ上げてきて温めたのだろうが、さすがにこれに入るのは抵抗がある。意を決し、服を脱いで湯につかってみると、なにやらどろっとした感じの液体が体を取り巻いた。何日も湯を替えていないのか、汚れがいっぱい浮かんでいる。白っぽい濁りも温泉のものなのか人間の垢なのか分からない。さすがに気持ち悪くなって、早々に湯から上がり、水道水でからだをごしごし洗って部屋に戻った。
 その夜は昼の疲れもあってたちまち眠りに落ちた。翌朝、誰よりも早く目を覚ましてみると、枕元に何かが動いている。メガネを手にとって見ると、どこから入ってきたのか、大きなゲジゲジが一匹、畳の上を悠々と歩いていた。