断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

温泉今昔 2、バーデン・バーデン

 バーデン・バーデンはドイツ南西部の温泉地で、温泉のほかにカジノなどもある高級保養地である。かれこれ十年以上も前、フライブルクへ向かう旅行中に立ち寄ったが、貧乏学生だった私が泊まったのは、一泊二千円だか三千円だかのユースホステルだった。高級ホテルなど夢のまた夢であった。
 二段ベッドが立ち並ぶむさくるしい一室に入ると、すでに先客があった。日本人で、バイクでヨーロッパを回っているという。バイクはどうしたのかと訊くと、三十万くらい出して飛行機に乗せてきたという話だった。なんでも北アフリカのモロッコに入って、ジブラルタル海峡を渡り、ピレネー山脈を越えてここまで来たそうで、昨夜は「黒い森」の山中で野宿をしたとのことだった。
 すっかり意気投合して、混浴の浴場があるから一緒に行こうという話になった。
 混浴は日本でも何度か行ったことがあるが、「おいしい目」にあったためしはほとんどない。ところがここは、驚いたことに若いカップルが何組も裸でじゃれあっていたのである。おそるおそる目を向けてみたが、全然平気である。他人の目などまったく気にとめていない。
 向こうの女性の裸を見るのはこのときがはじめてだったが、ちょっと日本人には考えられないほど豊満な体つきだった。腰回りなどまるでルノワールの裸婦画だった。
 日本に帰って、友人と酒を飲みながらその話をすると、なにがルノワールだ、どうせスケベな目で見ていたくせにと一笑に付されてしまった。なるほど「ルノワール」はちょっと気障だった。だが、あれだけ堂々と裸を見せられたために、かえって「劣情」が萎えてしまったというのも事実なのである。昔、大学の先輩に、ヌードビーチへ行ったときの話しを聞いたことがあるが、どうやらそれなども類似の体験であるらしい。