断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

再びナンバープレートの話

 しつこいようだが、車のナンバープレートの話をもう一つ。
 あるクラスのことだが、授業後にみんなで(といっても、学生数わずか二名のクラスだったのだが)食事に行こうという話になった。この大学の学生は大半がキャンパスのそばに下宿しているから、普通は徒歩か自転車、持ってもせいぜい原付かオートバイである。だがこの二人は違った。一人は医者の親に車を買い与えられており、もう一人はカー・マニアで、オンボロの中古車を自分でチューニングして乗り回していたのである。
 三人して大学近くの駐車場へ行ってみると、そこにはあまりにも対照的な光景が待ち受けていた。医者の子供の持ち車は新車のワゴン車、たぶん三百万は下らないであろう。カー・マニアのそれは中古の軽自動車、三万円で手に入れたという代物であった。
 どっちに乗るかと訊かれて私は後者を択んだ。三万円の車とはどんなものなのか、興味があったのである。するともう一人も私と一緒に乗ることになった。
 さて三万円の軽自動車であるが、車はともかく運転のすごさに呆れてしまった。とにかくハンドル捌きが荒い。MT車だけれど低いギアで思いっきり引っ張る。カーブでもめったに減速しない。急ブレーキも平気でかける。同乗者の体はほとんど浮きっぱなしである。勘弁してくれよと思いつつ、ふと隣を見ると、もう一人の学生が、顔面蒼白でフロントガラスを凝視していた。後になって分かったことだが、じつは彼の父親、「小さい車は危ないから乗るな。軽自動車なんてもってのほかだ。あれは走る棺桶だ。」などといって、三百万もするワゴン車を息子に買い与えていたそうである。
 それはともかくとして私は、低いギアで思い切りエンジンを回すという運転スタイルそのものは嫌いではないのである。学生時代、友人にギア付の原付バイクを譲ってもらって乗っていたのだが、すでにエンジンがかなりへたっていて、ギアとアクセルをフルに使う必要があった。車体が空中分解するんじゃないかというほどの激しい振動と、白煙をもうもうと撒き散らしながらの運転だったが、これはビッグバイクでは決して味わえない運転であって、これが楽しさに私は、このバイクで信州まで行ってしまったくらいである。
 そんなわけで軽自動車も悪くないなと思った次第なのだが、それにしてもあの黄色いナンバープレート、何とかならないものだろうか。車の前後の一番目立つ場所に、黄色という、カラーコーディネートの難しい色をぶらさげるなど、デザインへの冒涜としか言いようがない。黄色に調和するボディーカラーなんて限られているのだから。