断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

私がワインを飲めない理由

 「ワインを飲めない」と書いたが、正確には「赤ワインを」である。白は普通に飲めるのである。
 今から数年前のことである。とある論文の締め切りがぎりぎりになってしまい、無理やりにでも書き上げなければならなくなった。私は徹夜というものができない人間である。眠気を抑えながらの作業がダメなのである。できないからやらないのか、やらないからできないのか、そのあたりはよく分からないが、ともかく若いころから、私はほとんど一度も徹夜というものをしたことがない。
 それでも論文は期日までに仕上げなければならない。仕方なく私は、赤ワインをたくさん買いこんきて、書いていて眠くなくなったらそれをガブ飲みし、一眠りしてすっきりしたらまた書き続ける、ということをやった。
 一週間くらい、そんな滅茶苦茶な生活をしたと思う。おかげで論文は何とか仕上げることができたのだが、案の定、体のほうはぼろぼろになってしまった。しばらくはほとんど寝たきりみたいな生活であった。
 ここまでは「想定の範囲内」だったのだが、予期していなかったのは、そのときから赤ワインが飲めなくなってしまったということである。飲んだら吐くとか、そういうのではないのだが、何となく体が受け付けない。飲んでいて全然おいしくないのである。
 今、ちょうど花粉症の季節だが、花粉症は、体の中に花粉が一定量を超えて蓄積されると発症するという説を聞いたことがある。私がワインを飲めなくなったのもそれと似ているが、こちらは蓄積というよりも大量摂取によるショック症状であろう。昔読んだエッセイの中に、子供のころコーヒーをがぶ飲みして以来、コーヒーを飲めなくなってしまったという話があったが、私の場合もこれとまったく同じだと思う。
 コーヒーといえば私は一時期、一日に五杯から十杯くらい飲んでいたことがある。面倒な調べ物などをしていてイライラしてくると、タバコ好きがタバコをふかしてストレス発散するように、ついつい何杯も飲んでしまうのである。
 だが先日、何だか最近コーヒーがまずくなったということに気づいた。現在、用心してコーヒーをしばらく断っているところである。ワインに続いて大好きなコーヒーまで飲めなくなることだけは、ちょっと勘弁してほしい。