断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

フットサルをしてきた

 静岡はサッカーの盛んな地域で、私の住んでいる町にもサッカーやフットサルのできる施設がいくつもある。市役所には某サッカー名門校のOBがたくさんいるらしく、そこのサッカーチームは「強豪」だという話である。私自身はサッカーにあまり詳しくはなく、Jリーグはおろかワールドカップにもほとんど関心のない人間なのだが、フットサルというのは一度やってみたいと思っていた。たまたま近所のフットサル場で「個サル」(個人でも参加できるフットサルという意味) というプログラムがあるのを聞き、学期中の運動不足解消も兼ねて参加してきた。
 受付で料金を払ってフィールド脇のベンチでシューズのひもを結んでいると、参加者が続々と集まってきた。見ると大半が二十代、しかも体育会系のいかつい体格の人間ばかりである。ひょっとしてこれはかなり場違いな場所へやってきたのだろうかと後悔の念が心にきざす間もなく、彼らはシュート練習を始めた。思いっきり体重をボールに乗せ、ときにゴールポストにすさまじい衝撃を与えながらシュートを強烈に放ってくる。私など、試合が始まればものの五分で負傷退場させられかねない勢いである。これはとんでもないところへ来てしまったぞと怖気づいたが、今さら逃げ出すわけにはいかない。幸い、女の子も何人かやってきていて、彼女たちも一緒にプレーするようだったから、まあそれほどひどいことにはなるまいと腹をくくってフィールドに立った。
 柔軟体操が終わると簡単なパス回しの練習が始まった。練習というよりは準備体操の延長といった感じの軽いトレーニングなのだが、何せボールに触るのは中学二年以来である。おそるおそる、それこそ腫れ物にでも触るようにボールに足を合わせていった。それが終わるといよいよ試合本番であった。
 一チームのメンバーが五人、うち二人が女子である。ゴールキーパーは男が順々に受け持つという決りだったが、ジャンケンで負けていきなりキーパーをやることになった。内心かなりうろたえたが(キーパーは一度もやったことがない)、何食わぬ顔をしてゴールの前に立った。試合はすぐに始まった。
 女の子が混じっているということもあるのだろうが、さほど「本気」のシュートはやって来ない。それでもかなりきつめのものも混じっている。単独で正面から蹴られれば何とか対応できるのだが、パス回しをしながら狙ってくるものはなかなか抑えきれない。
 五分ほどでキーパー交代となりほっとしたが、それもつかの間、今度はゲームに直接参加せねばならない。何しろまともにボールに触るのは中学以来である。ドリブル、パス、シュート、すべてが初体験みたいなものである。とにかくボールを奪ってやろうと向かっていったら、いきなり派手に転倒した。テレビで見かけるラフプレー・シーンの物真似みたいな大げさな転び方である。接触した相手が「大丈夫ですか?」と手を差し伸べてきた。「大丈夫」と手で合図をしながらすぐに立ち上がった。何やら一人前のプレーヤにでもなった気分である。そんなこんなで1ゲーム目が終了。試合時間はたったの10分だったが、おそろしく長く感じられた。
 すぐに二試合目が開始。汗を拭う間もないプレー再開である。私は教師をやっているおかげで、視野を比較的広めに保つことができる。フットサル程度の競技場なら、フィールド上のどこに誰がいるのか、常時察知しながらプレーできる。が、ゲームは大学の教室のような「静止画像」ではない。しかもその動きがこちらが予想するよりはるかに速い。むろん技術の差は明らかで、ドリブルをしながら競り合いにでもなろうものなら、私とは腰の入れ方がまるで違う。それでも何本かへなちょこシュートを放ったが、やすやすとゴールキーパーに取られてしまった。
 三試合目以降は明らかに足の疲れが出てきた。頭では動こうと思っても、足がそれについて来ない。俗にいう「足が止まる」という現象である。幸いキーパーを順番に受け持つから、その間「休む」ことができる。それでずっと走りっぱなしにはならずにすんだのだが、そうでなかったら途中でダウンしていたかもしれない。
 五試合目、ようやく一本シュートを決めることができた。派手なガッツポーズの一つもしたいところだったが、それまでさんざんチームメイトに迷惑をかけてきた以上、大それたアクションをするわけにはいかない。この五試合目でその日のすべてのゲームが終わった。五十分間走り回って疲労困憊の体だったが、他の人たちはまだ走り足りないらしく、試合が終わってからもシュート練習をして楽しんでいた。
 この日のプレーを通じて得た教訓。私はふだんからそれなりに体を使っているつもりだったが、瞬発系の筋肉の鍛え方がまるで足りなかったということが一つ。それからフットサルをやっている女の子には可愛い子が多いということがもう一つである