断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

8月27日(フライブルク~バート・ラガーツ その1)

 昨夏の旅行記の続きである。フライブルクをあとにしてスイスにまた五日ほど滞在し、それからミラノ経由で帰国した。今回記すのは、その一日目の行程である。
 二週間滞在したフライブルクを出発。バーゼル行の普通列車に乗る。来た時とは逆のルートである。ほどなくバーゼル駅に到着。フライブルクに滞在中、バーゼル市立博物館はぜひ見ておいた方がいいと聞いていたので、ここを訪問することに決めていた。(二週間前にバーゼル経由でフライブルクに入ったときは、どこにも立ち寄らずに素通りしていた。)荷物をコインロッカーに入れていこうと思ったが、なかなか見つからず、そのまま美術館へ向かうことにした。
 駅から美術館までは1キロにも満たない距離である。しかし重い荷物を引きずっての歩行は結構しんどかった。足の具合も気になり、コインロッカーを使わなかったことをちょっと後悔した。しかも暑い。フライブルクでも何日かそういう日があったが、体の芯にくるようなイヤな暑さである。暑い日本からヨーロッパへやって来たはずなのに、いざ着いてみると全然涼しくない。むしろ日本より暑いくらいである。
 カバンから地図を出すのを面倒くさがって記憶を頼りに歩いていたら、道に迷ってしまった。近くを歩いていた女の人に尋ねると、間違った方向へ来ていたことが分かった。親切な人で、雑談をしながら美術館まで一緒についてきてくれた。
 昔読んだ本にこんなエピソードがのっていた。ある外国人が日本へ来た折に、道を尋ねたら目的地まで一緒に歩いてきてくれたというのである。見知らぬ旅人への親切をいとわぬ日本の文化に感動したという内容だった。いわゆる「おもてなし」というやつであろう。
 しかし「おもてなし」は別に日本の専売特許というわけではない。話は遡るけれど、フィレンツェに滞在中にもこんなことがあった。通りがかりのおばさんにスーパーマーケットはないかと訊ねたのである。彼女は英語が全く通じなかったが、「スーパーマーケット」という言葉だけは理解して、身ぶり手ぶりで私について来いと言った。黙ってついて行ったが、道中、彼女がしきりに話しかけてきた。ほとんどひっきりなしにしゃべっているといった有様だった。もちろんすべてイタリア語で、私には全く理解できないから、笑いながらうなずいているほかなかったわけだが。スーパーが見えるところまで来て握手をして別れた。トラブル続きのフィレンツェ観光にあって、心の和む忘れがたい出来事であった。