断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

8月27日(フライブルク~バート・ラガーツ その3)

 バーゼルの後は列車でチューリヒへ。今度こそ駅でコインロッカーに荷物を預け、身軽になって駅の外へ。大通りを離れてリマート川沿いの小道に入った。チューリヒには以前、友人たちと車で来たことがあるのだが、その時はドライブで素通りしただけで、街自体の印象もあまり残っていなかった。いま歩いているリマート川沿いの道は、ツーリスト向けの散歩道といった感じだが、車で通っただけでは分からない街の魅力を肌で感じることができた。
 それにしても暑い。昼下がりの一番暑い時間帯に来てしまったということもあるけれど「楽しいそぞろ歩き」などとは程遠い、吹き出す汗を拭いながらの歩行である。リマート川では大勢の人たちが水着姿で泳いでいた。この川はチューリヒ湖から流れ出し、街の真ん中を貫いて流れているのだが、上流の湖側から川へ入り、流れに乗って泳ぎを楽しんでいるのである。私も水着を買って飛び込みたいくらいだったが、そこは「自制」して歩き続けた。川沿いを南下してミュンスター橋を渡り、対岸の旧市街へ入った。目的地はチューリヒ美術館である。涼しい館内に入ってほっとしたものの、暑い盛りの街歩きの疲れどっと来て、もはや館内を見て歩く気力が湧いて出なかった。しばらく休んだだけで建物の外へ出、チューリヒ駅へ戻った。
 駅で切符を買ってふたたび列車に乗り込む。目指すはバート・ラガーツという町である。目立った観光名所があるわけではないが、次の日にベルニナ・エクスプレスで有名なベルニナ線に乗る予定で、その「起点」としてこの日の宿泊地に選んでいた。
 列車はチューリヒの湖畔に沿って走り続ける。湖の眺めが途切れ、しばらく山の中を走った後、車窓にまた別の湖が現れた。同じボックス席の客に訊いたら、ヴァーレン湖という名の湖だった。美しい山間の湖で、観光地化されていない静かな風情が好ましかった。
 湖の景色を後にして間もなく、バート・ラガーツ駅に到着。何もない田舎の小駅だが、駅の背後にそびえている岩峰が印象的だった。キャリーバッグを引きずりながら、予約してあったホテルへ。部屋に荷物を置くと外へ出、夕暮れ時の静かな町を散策した。


リマート川で泳ぐ人たち


バート・ラガーツ駅の眺め