断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

南昌山の夕景

 十二月も深まり、もうすぐ冬至である。先日、冷たい冬の夕焼けを眺めていて、盛岡にいた時分のことを思い出した。僕は大学を卒業してしばらく会社勤めをし、一年ほど盛岡に住んでいたのである。
 冬のころ勤めていた職場は、西向きの大きな窓があった。当時の僕は、そろそろ将来の進路に悩みはじめていて、心理的にかなりしんどい状況にあった。仕事の合間を見つけてはその窓の側に立った。そうしてしきりに考え事をした。
 夕方には太陽が、南西方面の南昌山を白く煙らしながら沈んでいく。その風景が、会社を辞めて横浜の実家に戻ってきてからも、ずっと眼中に残った。あの頃の心細い心境を思い出すにつけ、決まって脳裏に浮かぶのは(少なくともその一つは)この風景である。
 その南昌山を久々に見たくなった。もちろん盛岡まで出かけて行くわけにはいかないから、ネットで動画を探すことにした。山は盛岡の南西に位置するので、盛岡よりやや南の矢幅あたりからがよく見える。新幹線に乗って盛岡から東京へ向かうと、だんだん近づいて正面に位置するようになり、やがて再び遠ざかってゆく。 それで新幹線の動画を探したら見つかった。ちょうど西側の車窓が撮られており、うっすらと雪をかぶった連山がよく見えた。 
 盛岡は高校三年の時、修学旅行で訪れた。大学に入ってからはサークルの合宿があった。就職してすぐの配属先がまた盛岡であった。しかしその後は一度も訪れていない。故意に避けているわけではないけれど、何となくその機会がないまま今に至っている。