断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

幻の船旅

 ゴールデンウィーク中は散らかり放題になっていた部屋の片付けをしていた。パソコンが壊れてしまったということもあって、そちらの方の対応もしなければならなかった。とはいえ一週間ずっと仕事が休みだったわけではなく、2日の月曜日と6日の金曜日は大学の授業が入っていた。
 その連休に入る直前の4月28日、奥大井の井川の方へ行ってきた。大井川鉄道の終点井川駅まで行き、廃線跡のハイキングコースを歩く予定である。 井川駅は井川の集落からはかなり離れている。バスもあるけれど、駅の近くのダムサイトから無料の船が出ている。それに乗って井川の集落をめざし、そこから廃線跡のハイキングコースをたどって再び井川駅へ戻ってくるというプランであった。
 九時少し前に大井川鉄道の起点である金谷駅に到着。大井川鉄道の駅員に「井川湖の船は出ていますか」と尋ねると「出ていますよ」という答えだった。乗り放題のチケットを買って列車に乗った。
 連休の直前で車内は空いていた。朝食のビールとサンドイッチを頬張り、のんびり車窓を眺めているうちに千頭駅に来た。ここから大井川鉄道井川線に乗り換え、終点の井川駅を目指す。たかだか25 km ほどの道程を2時間近くかけて走破、終点の井川駅に着いた。急な階段を降りて一般道に出ると、そこからダムサイトへはものの5分もかからない。電力会社の建物を潜って駐車場のある船着場に行ってみると、なんと「水位が低いため本日は運航中止」との看板が……。 おいおいそれはないだろう!と呆れたが、旅をしていればこういうことはよくある。気を取り直して徒歩でハイキングコースを往復することにした。
 さてこの廃線跡は、元々は井川線の一部だったものである。井川線の終点は今は井川駅だが、昔はそこからもっと延びていて、堂平というところが終着駅だった。この区間はしかし昭和40年代の半ばに廃止され、最近になってハイキングコースとして整備されたのである。
 船着場のある駐車場から左の方へ舗装路が延びており、それをしばらく進むとハイキングコースになる。すぐそばに井川湖が広がるが、この眺めが素晴らしかった。ダムサイトから眺める井川湖はいかにも人造湖といった趣だが、樹々の間に見え隠れする湖面は自然な優雅さを湛えている。あまつさえ対岸の山稜は、南アルプス間ノ岳農鳥岳を結ぶ長大な稜線の末端部分で、ちょっと日本離れした雄大だ。この日は天気予報にも裏切られて(晴れるという予想だった)ずっと曇りだったが、山巓にかかる雲は山並みの雄偉さをいやましに高めるかのようだった。
 途中小さなトンネルをくぐり抜け、あっという間に終着地点の堂平に着いた。そこから舗装路を登って「アルプスの里」という食事処のある山間の盆地に出た。さてこの先どう歩いて行こうかと、道端に座り込んでスマホをいじっていたら、 井川線で同じ車両に乗っていたハイカーが目の前をすたすたと通り過ぎていった。調べてみると、林道を経由して堂平にいたるコースが見つかった。
 再び廃線跡を通って井川駅に戻ったのが14時40分。14時49分発の列車まで残りわずかの時間だった。


井川駅の駅舎


廃線跡のレールはここから始まる



廃線跡のレールはトンネルをくぐる



廃線跡のレールはここで終わる



林道の途中にあった吊り橋。ダッシュで往復!なんてことはしていません😄 




美しい井川湖の眺め