断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

8月8日(フィレンツェ~ミラノ)

 フィレンツェは今日で最終日。明日はスイスへ行くので、今日中にミラノまで移動してしまう予定である。
 午前中、これまで訪問を先延ばしにしていたアカデミア美術館を訪れたが、なんと休館。月曜日なのをうっかりしていた。フィレンツェ観光の必見ポイントといわれていただけに、ちょっと悔しい。同じように休館を知らなかった中国人の二人組が、門の前に呆然と立ちすくしていた。私と顔を合わせると、どちらからともなく笑い出した。建物を前に「記念写真」を撮りたいというのでシャッターを押してあげた。その足でバルジェロ博物館とサンタ・クローチェ教会へ。後者はこれまでに見た教会の中で間違いなく最上のもののひとつである。
 正午ちょっと前にヴェッキオ橋を渡ってボーボリ庭園へ。(この間の事情は以前の記事で書いた。)庭園そのものは素晴らしかったが、しだいに募る重苦しい暑さに耐えかね、宮殿の建物の中へ避難した。
 前日もそうだったが、午を過ぎると熱波のような暑気がやってくる。体の芯にこたえるイヤな暑さである。ヨーロッパの夏はからっとしているのでさほど不快ではないという人がいるが、私はそうは思わない。むしろある程度空気がうるおっているほうが過ごしやすい。
 この暑さの中を歩き回ったことが、後々まで尾を引くことになった。フィレンツェの街は決して小さくはないが、バスで回るほどの大きさでもない。いきおい徒歩で移動することになったが、石畳の上を三日間、薄っぺらのスニーカーで歩き回ったせいで、知らず知らず足に疲労をためてしまった。あまつさえホテルでエレベータの段差につまずいて足の爪を割ってしまい、その後、無理ができなくなってしまった。
 宮殿を後にしてふたたび市街地へ。とにかく暑い。もはや一歩も街歩きをしたくない。さっさとミラノ行の列車に乗ってしまいたかったが、予約したのはあいにく夕方の便だった。(ミラノでの出来事に懲り、フィレンツェに到着そうそう帰りの列車を予約したのだが、その際に「切符そのものは安いが高額の予約変更料がかかるチケット」を買ってしまったのである。)冷房のあるカフェで時間をつぶし、夕方近くにホテルへ荷物をとりに行った。
 じつはフィレンツェでは、靴を買わなければならなかった。スイスでトレッキングをする予定なのに、日本からシューズを持ってこなかったからである。もちろんスイスまで行けば、そんなものはどこででも買えるのだろうが、そうすると今度は値段が心配である。そのためイタリアにいるうちに調達するつもりだったのだが、フィレンツェは街中いたるところに靴屋があるのに、なぜかトレッキングシューズだけは置いていない。正直、これには参った。三日間探し回っても見つからず、ついに諦めてスイスで買うことにしていた。
 ホテル近くのバス停で降りたが、道を間違えて妙な場所へ出てしまった。うろうろしていたら、たまたまシューズショップに出くわした。大して期待もせず中へ入ったら、何とトレッキングシューズが置いてあるではないか。すぐに靴を買って店を後にし、ホテルへ戻って荷物を手にした。
 ふたたびバスで中央駅へ。冷房のきいた車内に入り、荷物を置いて座席に腰かけ、ようやく人心地がついたのであった。
(写真は庭園の頂上から眺めた郊外の緑)