断想さまざま

山村浩(哲学・大学非常勤講師・藤枝市在住・宇久村宏=ペンネーム)の日々の断想です。

春が来た(2)

 それはそうとしてここ(静岡)は明らかに東京より三、四度気温が高く、そのぶん春の訪れも早い。地図で見ると伊豆半島東海岸と同じくらいの緯度だから、東京より暖かいのは当たり前なのだが、実際に住んでみると、緯度以上に、ずいぶん南に来たなという印象を受ける。たとえば今、一月の終わりだが、体感的には東京の三月はじめと同じくらいの日差しの強さを感じる。(ただしこれは純粋に体感の問題である。)むろん風はまだ冷たい。ことに日陰は寒さが身にしみる。しかし日向に出ると、日差しは思いのほか暖かく、部屋の窓越しに差しこむ陽光は、一、二ヶ月くらい季節を先取りしたみたいな輝きと勢いに満ちている。
 午後になると、日差しに微妙な倦怠の影が混じる。これは季節がすでに熟れはじめている兆候で、こんなものは東京の一月には絶対にない。暮れると風が急に冷たくなるが、それでもあたりには、どこか昼の温もりが残っていて、底冷えならぬ底暖まりのようなものが、夜がふけるまで町のそこかしこに残るのである。